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虫歯は放置し続けると、やがて痛みを感じなくなります。
しかし、「もう痛くないから平気かな」と、治療を受けないのは大きな間違いです。痛みを感じなくなった虫歯をさらに放置すると歯茎や顔全体が腫れたり、顎の骨が溶けたりする症状が現れ始めます。
このような段階になると、夜も眠れなくなるほど歯茎や顎が強く痛むことがあります。
今回は「痛みがなくなった虫歯を放置することの危険性」および「痛みがなくなった虫歯の治療方法」についてお話をさせていただきます。
なぜ虫歯の痛みがなくなるのか
虫歯を放置し続けると、あるときを境に突然、痛みを感じなくなります。
これは虫歯が治ったわけではありません。虫歯は放置しているとやがて神経が腐って死滅するため、痛みを感じなくなるのです。
虫歯は以下のような経過をたどり、症状が進行していきます。
C0(初期の虫歯)
C0は、ごく初期の虫歯に分類されます。歯のいちばん外側にあるエナメル質が、虫歯菌がだす酸によって少し溶けた状態です(=脱灰)。しみや痛みはなく、ご自身ではなかなか気づけません。よく見ると歯が白や茶色に変色していることがあります。
C1(エナメル質の虫歯)
C1もエナメル質のみが溶けた初期段階の虫歯です。C0より多少虫歯が進行しています。冷たい物が歯にふれるとしみることがありますが、痛みは感じません。歯が白や茶色に変色しますが、C0同様、ご自身では気づかないことが多いです。
C2(象牙質の虫歯)
C2はエナメル質の内側にある象牙質にまで進行した虫歯です。冷たい物や甘い物がふれるとしみたり、食べ物を噛んだときに痛みを感じたりするようになります。 歯には黒い穴が開きます。
C3(歯髄に達した虫歯)
C3は歯の中心部の歯髄に達した虫歯です。歯髄の中には歯の神経や血管が通っています。この段階まで来ると、就寝中など何もしていなくてもズキズキと強い痛みを感じます。冷たい物や甘い物だけではなく、温かい物でもしみたり痛みを感じたりするようになります。
C4(神経が死滅した虫歯)
C4は歯茎から上の歯冠がぼろぼろに崩れ落ち、歯の根っこ(歯根)だけが残った状態の虫歯です。歯の神経が死滅しているため、痛みを感じなくなります。
C4の虫歯をさらに放置すると歯の根の先に虫歯菌や細菌が入り込み、歯茎が化膿したり顎の骨が溶けたりすることがあります。歯の神経が死滅しているため歯そのものは痛みませんが、化膿した歯茎や、細菌により溶かされた顎が強く痛むようになります。
次の項では、神経が死滅した虫歯を放置したときに起きる症状や病気について解説します。
痛みがなくなった虫歯を放置する危険性
神経が死滅した虫歯を放置すると以下のような症状や病気が発生します。
口臭が強くなる
虫歯を放置していると虫歯菌や細菌によって歯の神経が腐ったり、歯根が化膿して口臭が強くなったりします(腐敗臭および化膿臭)。
根の先に膿がたまる
虫歯菌や細菌が歯根にまで達すると、根の先が化膿して膿の袋ができます。これを根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)と呼びます。膿の袋が大きくなると顔が腫れたり(人相が変わるほど腫れることもあります)、歯茎に強い痛みを感じたりするようになります。
上顎洞炎になる
上顎の奥歯の上部には上顎洞(じょうがくどう)と呼ばれる空洞があります。虫歯を放置して上顎の奥歯の根の先が化膿すると歯根の炎症が上顎洞におよんでしまい、上顎洞炎を起こすことがあります。上顎洞は鼻腔とつながっているため、上顎洞炎になると鼻がつまる、臭いを感じなくなる、目や鼻の奥が痛む、黄色い粘り気のある鼻水がでるなどの症状が現れ始めます。重度になると中耳炎や気管支炎を発症することもあります。
骨髄炎になる
虫歯菌や細菌が顎の骨に達すると、骨髄に炎症が起きて骨髄炎を発症することがあります。骨髄炎になると細菌によって顎の骨が腐り、骨が溶けて顔の形が変わることもあります。炎症が起きた箇所は熱を帯び、強い痛み(脈を打つごとにズキズキと痛んだり、歯や顎にふれると強く痛んだりする)がでます。
心筋梗塞・脳梗塞になる
虫歯を放置し続けると、顎の骨の内部を通る血管の中に虫歯菌や細菌が入り込みます。血管に侵入した虫歯菌や細菌は全身をかけめぐり、心筋梗塞や脳梗塞などの循環器系疾患を引き起こすことがあります。
このように、痛みがなくなった虫歯を放置するとさまざまな症状が起きたり、病気になったりするおそれがあります。「たかが虫歯だから」と虫歯を甘く見てはいけません。
次の項では、痛みがなくなるまで放置した虫歯の治し方についてご説明します。
痛みがなくなった虫歯はどうやって治療するの?
神経が死滅して痛みがなくなった虫歯(C4)はほとんどのケースで抜歯となります。ただし、症状によっては残っている歯の根を土台にして差し歯にできる場合もあります。歯の根の先が化膿している場合は、歯茎を切開して膿をだす排膿手術が必要です。
痛みがなくなった虫歯の治療で行うこと
1,抜歯
神経が死滅した虫歯は多くの場合、歯根も死んでおり歯を残せないケースが多いです。歯を残せない場合には抜歯となります。抜歯後は入れ歯やブリッジ、インプラントなど、失った歯をおぎなう補綴治療を行います。
2,根管治療
根管治療とは歯根の根管内部を洗浄・殺菌する治療です。通常はC3の虫歯で行いますが、C4の虫歯でも細菌感染の症状が重いときや歯根が残せる場合には根管治療を行い、根の中を洗浄・殺菌します。
3,差し歯
差し歯とは、歯冠(歯茎から上の歯の部分)がなくなり歯の根だけが残っている場合に行う補綴治療です。
大部分の神経が死滅しているものの一部の神経(歯根の一部)がまだ生きているケースに限り、差し歯治療が可能となります(歯根の一部が生きていても歯を残せず抜歯となるケースもあります)。
差し歯治療では根管治療後、土台となる歯の根にコアを差し込み、コアの上に被せ物を装着します。一見すると通常の(歯冠がある歯の)被せ物と似ていますが、差し歯は歯冠がなく歯根とコアのみで支える構造ため、通常の被せ物よりも強度(安定度)は低くなります。
4,排膿手術
痛みがなくなった虫歯を放置すると、歯の根の先が化膿して根尖性歯周炎や歯根嚢胞(しこんのうほう)などの感染症を発症することがあります。歯の根の感染症の治療では根管治療や歯茎を切開して膿をだす排膿手術を行います。
虫歯は放置しても治りません。定期的な検診、予防が大切
虫歯は放置しても自然に治ることはありません。放置した虫歯はやがて神経が死滅し、痛みを感じなくなります。神経が死滅するまで虫歯を放置すると歯だけではなく歯茎や歯根、顎の骨、さらには全身性の病気にまで進行することもあります。
虫歯は早期発見・早期治療が大切です。早い段階で虫歯を発見できれば、治療にかかる時間や治療中に感じる痛みも少なく済みます。治療費も同様です。
虫歯は神経が死滅すると歯を残せる確率が非常に低くなります。歯の痛みや違和感など、少しでも歯に異変を感じたときはできるだけ早く歯科医院で診察を受けるようにしましょう。
当院では定期的なクリーニングと毎日のセルフケアで、お一人おひとりの大切な歯を守りたいと考えています。定期的な検診で予防の意識を高め、治療することにならないように歯を守っていきましょう。